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高校数学[総目次]

数学B 第1章 ベクトル

  スライド ノート 問題
1. ベクトルと有向線分 [無料]    
2. ベクトルの演算 [無料]    
3. ベクトルの成分 [無料]    
4. ベクトルの内積 [会員]    
5. 位置ベクトル [会員]    
6. ベクトル方程式 [会員]    
7. 平面ベクトルの応用 [会員]    
8. 空間ベクトル [会員]    
9. 空間ベクトルの成分 [会員]    
10. 空間ベクトルの内積 [会員]    
11. 空間の位置ベクトル [会員]    
12. 空間ベクトルの応用 [会員]    
13. 空間のベクトル方程式 [会員]   [会員]

1.ベクトルと有向線分

1.1 ベクトルとは

 これから学ぼうとするベクトルとは一体何を指しているのであろうか.「ベクトル」という言葉の響き自体が,いかにも「一見さんお断り」といった門前払い的な近寄り難さが漂っている.中学校ではこのようなカタカナで意味不明な用語は出てこなかった。「これだから高校数学は…」と青息吐息だ.

 ベクトルというこれまでにない新しい量を,次のように導入する.

ベクトルとは「向き」と「大きさ」という2つの量をあわせもった量をベクトルという

 どのような教科書にもこのように説明してあるのだが,さて一体どういう意味なのだろうか?

 ベクトルの説明としてしばしば持ち出される例が「速さ」と「速度」である.「同じものでしょ?」さにあらず.「速さ」が大きさだけをもつ量であるのに対し,「速度」は向きと大きさをもった量,即ちベクトルである.小学校の算数の文章題では「1分間に50mの速さで歩くと」などと表現されており,速度ではなかったはずだ.それもそのはず,速度はベクトルなので,小学生にとっては難しすぎる用語なのだ.「速さ」は50mという大きさだけの量である.一方「速度」は,例えば「西向きに毎分50mの速度で進む」というように,「向き」である西と,「大きさ」である50mを同時に述べなければならない.このように向きと大きさを一度に表現したとき,その量をベクトルというのである.

ベクトルの例

 力  :右向きに5[N]
 速度 :北向きに4m/s
 加速度:下向きに9.8m/s2

 ベクトルが何たるかを最初から理解するのは難しい.とにかくとても便利な道具であることはゆるぎない事実であるが,どう便利なのかは徐々にわかっていくものであろう.ベクトルのすごさを実感してもらうための例を用意した.とりあえず雰囲気だけ味わってみよう.

 数学Ⅰの三角比で登場する余弦定理.内容は次のようなものであった.

※余弦定理について,詳しくはこちら

余弦定理
a2=b2+c22bccosAb2=c2+a22cacosBc2=a2+b22abcosC

 数学Ⅰの三角比のところで記した証明をここに転載すると,次のようなる.三平方の定理を用いただけのものであるが,場合分けも多く,見ての通り証明がとても長い….

数学Ⅰの範囲内での証明

 一方,これをベクトルで証明すると次のようになる.

ベクトルによる証明

 ご覧のように,ベクトルだと単に式を展開しただけである!同じ定理を示すのにこれほどまでに負担が異なるのだ.このお手軽さを利用しない手はない.

 中線定理と呼ばれる幾何の定理が存在する.

中線定理 △ABCにおいて,辺BCの中点をMとすると次が成り立つ.AB2+AC2=2(AM2+BM2)

 この定理を証明する方法はいくつかあり,三平方の定理を利用する方法,座標軸を設定して線分の長さを計算する方法,そしてすぐ上で述べた余弦定理を利用する方法などが考えられる.それらによる証明方法は参考書等に譲るが,いずれもベクトルによる証明方法の簡潔さには遠く及ばない.

ベクトルによる証明

 AB=(bAC=(c とおくと,AM=(a+(b2 であるから,

(右辺)=2(|(a+(b2|2+|(a(b2|2)=2(|(a|2+2(a(b+|(b|24+|(a|22(a(b+|(b|24)=22(|(a|2+|(b|2)4=|(a|2+|(b|2=(左辺)

補足

 大きさのみをもった量をスカラーという.
  速さ(=速度の大きさ)

1.2 有向線分

 ベクトルを扱っていく上で,大変便利な図形である有向線分を導入する.と言っても単なる矢印のことである.

有向線分とは始点と終点を指定した線分を有向線分という.

 有向線分は矢印を使って表す.矢印の根元を始点,先を終点とするのである.

 前節で,ベクトルは向きと大きさをもった量であると定義したが,するとベクトルは有向線分を用いて表すことができるのである.このとき,

ベクトルの向き :有向線分の向きで表す
ベクトルの大きさ:有向線分の長さで表す

とする.

 Aを始点,Bを終点とする有向線分を,(AB で表し「ベクトルAB」と読む.またその大きさを |(AB| で表す.要するに有向線分(矢印)の長さを |(AB| で表すのである.ベクトルやその大きさは1文字で (a|(a| と表すことも多いが,その理由の多くは記述の簡略化のためである.

 大きさと向きが等しい2つのベクトル (a(b(a=(b と表す.

ベクトルの相等(a=(b (a(b は向きと大きさが等しい.

 複数のベクトルを有向線分で表して比較するとき,位置は問題にしないことに注意する.つまり平行移動して重なるものは,ベクトルとしては同じものとみなすのである.この点が重要なポイントであるとともに,初学者にとってはわかりにくくもあり,またベクトルでつまずく第1歩もここにある.ベクトルは向きと大きさだけを指定した量であるから,それがどこに描かれたものであるかは見ないのである.

注意

 |(a| は「(a の大きさ」と読み,「(a の絶対値」とは言わない.

よくある質問

なぜ矢印(有向線分)が登場するのですか?ベクトルと矢印はどういう関係ですか?

矢印(有向線分)という図形が、向きと大きさをもつ量(つまりベクトル)を表すものとして最適だから

 ベクトルについて「大きさと向きをもった量をベクトルという」と説明されても,この表現はきわめて抽象的であって,とりわけ初学者にとっては何のことだかさっぱりわからない.しかし矢印(有向線分)はとても身近な図形である上に,ベクトルという得体の知れないものを具体的に目に見える形として表現するのにピッタリな素材なのである.加えてベクトル単体の表現にとどまらず,次節以降で学ぶベクトルの和や差,実数倍といったものも,有向線分で視覚的に理解することができる.
 向きと大きさを同時に表すことができる図形は有向線分(矢印)以外でも考えることはできる.そういった図形を集めてきて,どれがベクトルを表すのに最もふさわしいかというコンテストを行えば,表現の簡便さ,演算との親和性等から有向線分が優勝することはほぼ間違いない.

単位ベクトル

 大きさが1のベクトルを単位ベクトルという.単位ベクトルは大きさだけを問題にしており,向きは問わない.

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