高校数学[総目次]
数学B 第3章 確率分布と統計的な推測
スライド | ノート | 問題 | |
1. 確率変数と確率分布 | |||
2. 確率変数の期待値と分散 | |||
3. 確率変数の変換 | |||
4. 確率変数の和と期待値 | |||
5. 独立な確率変数と期待値・分散 | |||
6. 二項分布 | |||
7. 正規分布 | |||
8. 母集団と標本 | [会員] | ||
9. 推定 | |||
10. 仮説検定 |
1.確率変数と確率分布
1.1 確率変数とは
確率変数とは何か.通常の変数との違いはどこか.
例 2枚の硬貨を同時に投げたとき,表の面が出た枚数を $X$ とすると,$X$ の値は 0,1,2 のいずれかである.そして,それぞれの値をとる確率 $P$ は次のようになる:
$X$ | 0 | 1 | 2 | 計 |
$P$ | $\dfrac14$ | $\dfrac12$ | $\dfrac14$ | 1 |
この $X$ のように,試行によって値が決まる変数を確率変数(random variable)という.確率変数は $X$ のように通常大文字を用いて表す.
確率変数と通常の変数との違いは,確率変数には各値に対して背後に確率が1つ対応しているというところにある.
$X=k$ のときの確率を $P(X=k)$ と表す.上の例では,
\[P(X=0)=\frac14,\ P(X=1)=\frac12,\ P(X=2)=\frac14\]
となる.確率であるからこれらの合計は必ず1になる:
\[\begin{align*} P(&X=0)+P(X=1)+P(X=2)\\[5pt] =\ &\frac14+\frac12+\frac14\\[5pt] =\ &1 \end{align*}\]
また,
\[\begin{align*} P(X\geqq1)&=P(X=1)+P(X=2)\\[5pt] &=\frac12+\frac14\\[5pt] &=\frac34 \end{align*}\]
といったように,カッコ内に不等式で条件を与えることもできる.
確率変数 試行の結果によって値が決まる変数を確率変数という.確率変数には各値に対して確率が与えられている.
発展的補足
確率変数について深く理解する
確率変数について例を用いてやや詳細に説明する.
例として,さいころ1回投げを考える.しかしここではわかり易くするために,さいころには1から6ではなく,「ア,イ,ウ,エ,オ,カ」の文字が1つずつ書かれているとする.
この場合の「試行」とは
さいころを1回投げる
である.この試行の結果さいころの目の出方は
ア,イ,ウ,エ,オ,カ
の6通りであり,これら1つ1つを根元事象という.この根元事象の集合を $U$ とする:
$U=\{$ア,イ,ウ,エ,オ,カ$\}$
次に集合 $U$ の3つの部分集合 $A_1,A_2,A_3$ を次のように定める.
$A_1=\{$ア,イ,ウ$\},\ A_2=\{$エ,オ$\},\ A_3=\{$カ$\}$
$A_1,A_2,A_3$ はそれぞれさいころを1回投げて「ア,イ,ウの目が出る事象」「エ,オの目が出る事象」「カの目が出る事象」に対応している.このように「集合」と「事象」を同じものとみなすことは既に数学Aで学んだところである.また,
$A_1\cup A_2\cup A_3=U$
$A_1\cap A_2=\varnothing,\ A_2\cap A_3=\varnothing,\ A_3\cap A_1=\varnothing$
であることも注意しておく.ただし $\varnothing$ は空集合を表す.
ここで確率変数 $X$ を導入する.確率変数とは試行の結果によって現れた事象について定まる「数」であるから,例えば次のようなものである.
試行の結果が集合 $A_1$ の要素のとき,$X=10$
試行の結果が集合 $A_2$ の要素のとき,$X=20$
試行の結果が集合 $A_3$ の要素のとき,$X=30$
つまり確率変数 $X$ が取りうる値は $10,20, 30$ の3つである.
確率変数の背後には確率が対応している.それらは
\[\begin{align*} &P(X=10)=P(A_1)=\frac36=\frac12\\[5pt] &P(X=20)=P(A_2)=\frac26=\frac13\\[5pt] &P(X=10)=P(A_3)=\frac16 \end{align*}\]
であり,
\[\begin{align*} &P(X=10)+P(X=20)+P(X=30)\\[5pt] =\ &P(A_1)+P(A_2)+P(A_3)\\[5pt] =\ &\frac36+\frac26+\frac16\\[5pt] =\ &1 \end{align*}\]
となっている.$A_1,A_2,A_3$ は排反かつ $A_1\cup A_2\cup A_3=U$ より
\[\begin{align*} &P(X=10)+P(X=20)+P(X=30)\\[5pt] =\ &P(A_1)+P(A_2)+P(A_3)\\[5pt] =\ &P(A_1\cup A_2\cup A_3)\\[5pt] =\ &P(U)\\[5pt] =\ &1 \end{align*}\]
と計算することもできる.
今,先に全体集合 $U$ の部分集合 $A_1,A_2,A_3$ を決めたのちに確率変数 $X$ を導入したが,今度は逆に確率変数 $X$ を先に導入することもできる.例えば,$X$ が3つの数 $10,20,30$ をとるとし,
$X=10$ のとき,対応する集合(事象)は $A_1$
$X=20$ のとき,対応する集合(事象)は $A_2$
$X=30$ のとき,対応する集合(事象)は $A_3$
とすればよい.
以上により,確率変数 $X$ を導入するということは,全事象 $U$ をある特徴,性質等々によって互いに排反な事象 $A_1,A_2,\cdots,A_n$ に分けることに他ならず,かつそれらが
\[A_1\cup A_2\cup\cdots\cup A_n=U\]
となっているのである.
1.2 確率分布
確率分布とは「確率変数の値→確率」の対応関係を表したもの
確率変数 $X$ の値と,そのときの確率との対応関係を確率分布(probability distribution),あるいは単に分布という.前節で例に挙げた2枚の硬貨を同時に投げるときの表の面が出た枚数を表す確率変数 $X$ の分布を再掲すると,次のようになる.
\[P(X=0)=\frac14,\ P(X=1)=\frac12,\ P(X=2)=\frac14\]
確率分布は次のように表にすると見やすい.
$X$ | 0 | 1 | 2 | 計 |
$P$ | $\dfrac14$ | $\dfrac12$ | $\dfrac14$ | 1 |
また,$X$ がこのような確率になっているとき,$\boldsymbol{X}$ はこの分布に従うという.
確率分布 確率変数 $X$ に対して,それぞれの値のとる確率が \[P(X=x_k)=f(x_k)\] で与えられるとき,$f(x)$ を$X$ の確率分布という.$X$ のとりうる値が $x_1,x_2,\cdots,x_n$ の $n$ 個のとき, \[\begin{align*} &f(x_k)\geqq0\ \ (k=1,2,\cdots ,n)\\[5pt] &\sum_{k=1}^nf(x_k)=1 \end{align*}\] が成り立っている.
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