高校数学[総目次]

高校数学ワンポイント

  スライド ノート
1. ファクシミリの原理 [会員]  
2. バウムクーヘン分割 [会員]  
3. 円と放物線    
4. 垂線の長さ    
5. 不定方程式    
6. 関数の連続性は導関数に遺伝するか    
7. 極方程式における $r$ の正負について    
8. 極座標表示における扇形分割積分    
9. 素因数分解の一意性    
10. 三角関数の不定積分    
11. コーシー・シュワルツの不等式    
12. 放物線と2接線で囲まれた部分の面積    
13. 整式の除法(発展編)    
14. 3次関数のグラフの特徴    
15. 曲線の長さを求める公式の証明について    
16. もう迷わない!必要条件・十分条件のくすっと笑える判定方法    

9.素因数分解の一意性

 $1,2,3,\cdots$ を自然数といいます.このうち1と自分自身しか約数をもたない数を素数といいますが,1だけは素数に含みません.具体的には $2,3,5,7,\cdots$ という数で,素数は無限にあることが知られています.素数と1以外の自然数を合成数といいます.合成数を素因数の積に分解することを素因数分解といいます.例えば,

\[6=2\times3,\ 15=3\times5,\ 18=2\times3^2\]

等々.中学生,あるいは小学生の時から慣れ親しんでいるものでしょうが,次の問いはどうでしょう?

Q1. どんな合成数も素因数の積に分解できるのか?
Q2. できるとすれば,分解の仕方は1通りか?

 Q1 は合成数の「分解の可能性」について,Q2 は「分解の一意性」についてですが,答えはどちらもYESです.では証明は?と聞かれたらどうでしょう.教科書でも見たことがありません.

 以下,これらについて証明していきます.尚,本稿では数といえば自然数(1以上の整数)であるとします.

9.1 分解の可能性

定理 合成数は素数の積に分解できる.

証明

 数学的帰納法で示します.

1° 1番小さい合成数4は $2\times2$ と素数の積に分解できます.

2° ある合成数を $n$ とし,$n$ より小さい合成数はすべて素数の積に分解できるとします.$n$ は合成数ですから,$n$ より小さな数 $a,b$ を用いて $n=ab$ と書き表すことができます.

 $a$ と $b$ が共に素数であれば,$n$ はもはや素数の積に分解できています.

 次に $a$ と $b$ の少なくとも一方が合成数の場合を考えます.$a$ が合成数としましょう.すると $a$ は $n$ より小さい数なので帰納法の仮定により,素数の積に分解できる数です.これは $b$ が合成数の場合でも同様です.

 以上により分解可能性が証明されました。

9.2 分解の一意性

定理 合成数を素数の積に分解する方法は,素因数の順序を無視すれば1通りである.

 定理中の「素因数の順序を無視すれば」というのは,例えば合成数6は $2\times3$ という分解と $3\times2$ という分解の2通りが考えられますが,いずれも素因数2と3が1度ずつ用いられて合成されています.この場合,素因数分解の方法は1通りであるとして区別しません.$p,q,r,s$ をすべて異なる素数としてある合成数 $n$ が

\[n=pq=rs\]

という具合に書ければ,上の主張は偽ということになりますが,そうはならないことを以下で証明します.

証明

 数学的帰納法で示します.

1° 1番小さい合成数4は,$4=2\times2=2^2$ で1通りです.

2° $n$ を合成数とし,$n$ より小さい合成数の分解の一意性は保証されているとします.このとき,$n$ が素因数分解として2通りの表現ができたとしましょう:

$n=p\,q\,r\cdot \cdots=p’q’r’\cdot \cdots$  (①)

ここで $p,q,r,\cdots$ や $p’,q’,r’,\cdots$ はすべて素数です.

 まず,$p\neq p’$ でなければなりません.何故というに,$p=p’$ ならば,①の各辺を $p$ で割ると

\[\frac np=q\,r\cdot \cdots=q’r’\cdot \cdots\]

となりますが,$\dfrac np$ は $n$ より小さな数ですから帰納法の仮定により分解の方法は1通りです.即ち

\[q\,r\cdot \cdots=q’r’\cdot \cdots\]

の両辺は全く同じ素数の積となっており,$n$ の素因数分解が2通りあったということに反します.これで $p\neq p’$ であることがわかりました.同様にして,$p’$ は $q,\ r,\ \cdots$ のいずれとも異なります.

 今 $p>p’$ であったとしておきます.

 次に,$n$ から $p’q\,r\cdot\cdots$ を引いてみます.①の中辺と右辺は

\[(p-p’)q\,r\cdot\cdots=p'(q’r’\cdot\cdots-q\,r\cdot\cdots)\]

となります.右辺の先頭に素数 $p’$ がありますが,先ほど確認したように左辺の $q,r,\cdots$ のいずれの素数とも異なりますから $p-p’$ の約数となるしかありません.するとある数 $s$ を用いて

\[p-p’=p’s\]

と書けますが,この式より$p=p'(s+1)$ となって $p’$ が $p$ の約数になります.しかるにこれでは $p$ と $p’$ が異なる素数であるとしたことに矛盾してしまいます.

 結局 $n$ の分解の方法が2通りあるという仮定がまずいということがわかり,証明が完了です.

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