中学1年数学 第1章 正の数と負の数
1.1 正の数と負の数
1.2 加法と減法
1.3 加法の計算法則
1.4 乗法と除法
1.5 乗法と除法の性質

4.0 はじめに
小学校では何か新しい計算が登場すると,必ず具体例を考えながら理解してきました。2×3ですと,例えば「あめを1人に2個ずつ配ります。3人に配るとき,あめは何個必要ですか」といった問題を考えることで理解しようという訳です。これから負の数を含む掛け算や割り算を学習していきますが,掛け算の方はこれまで通り具体例で考えることができても,割り算の方はそれが大変に難しくなります。中学校以降の数学においては,
具体的なものから抽象的なものへ
という流れが強くなっていきます。この思考の転換になじめないと,中学校以降の数学でつまずく原因となります。無理のある具体例で覚えようとするよりはむしろ,そういうルールだと思って受け入れる方が良いように思います。
例えば,負の数どうしを掛けると正の数になるということを,このあとすぐに学習します。でも(負の数)×(負の数)がどうして正の数になるのでしょう?中学校の数学でつまずく最初の1歩がここになる人は多いはずです。こういった計算を具体例で考えることはできます。実際,以下でも2つの例を挙げています。しかし説明している筆者ですら「これってわかりやすい例なのかなあ」と実は思ったりもしています。それならいっそのこと「掛け算とは数直線を用いたルールによって決められる計算のこと」と割り切った方が,あとあと良いのではないかと思いました。従いまして,以下では掛け算とはどのような計算を指すのかを,まずは数直線を用いて説明しています。
4.1 乗法
掛け算のことを乗法(じょうほう)といいます。例えば2×3という乗法の答えは6ですが,6をこの乗法の積(せき)といいます。乗法について,まずは数直線を用いて説明していきましょう。
●正の数をかける
例えば,ある数Aに3を掛ける計算であるA×3の場合,数直線を用いて次のように計算します。
数直線上で原点からAまでの距離と向きを調べる。
→Aの向きに,原点からAまでの距離の3倍のところまで進む。
→その点が表す数が答えとなる。


例1 (-2)×3
数直線上で原点から-2までは,距離が2で左向き。
→左向きに,原点からの距離が2×3のところまで進む。
→その点が表す数である―6が答えとなる。

答えは -6
(-2)×3の具体例
- 1日に温度が2℃ずつ低くなっていきます。3日後に何℃上昇していますか。
こたえ -6度上昇する → 6度低下する - 1日にあめを2個ずつ食べました。3日目にあめは何個増えていますか。
こたえ -6個増えた → 6個減った
例2 (-2)×0.5
数直線上で原点から-2までは,距離が2で左向き。
→左向きに,原点からの距離が2×0.5のところまで進む。
→その点が表す数である-1が答えとなる。

答えは -1
(-2)×0.5の具体例
- 水槽に入った水が1日に2cmずつ蒸発していきます。半日後の水位は現在より何cm高いですか
こたえ -1cm高い → 1cm低い
●負の数を掛ける
例えば,ある数Aに-3を掛ける計算であるA×(-3)の場合,数直線を用いて次のように計算します。
数直線上で原点からAまでの距離と向きを調べる。
→Aの向きと逆向きに,原点からAまでの距離の3倍のところまで進む。
→その点が表す数が答えとなる。
このように,負の数を掛けるということは,加法や減法のときがそうであったように,向きが逆転すると理解しておくと間違いがありません。
ポイント負の数を掛ける → 進む向きが逆転
例3 2×(-3)
数直線上で原点から2までは,距離が2で右向き。
→逆の左向きに,原点からの距離が2×3のところまで進む。
→その点が表す数である-6が答えとなる。

答えは -6
2×(-3)の具体例
- 東向きに毎秒2mの速さで歩いている人がいます。3秒前には,現在の地点からみてどの場所にいましたか。
こたえ 東に―6mの所 → 西に6mの所 - 毎日2mmずつ伸びる植物があります。3日前は現在と比べて何mm長いですか。
こたえ -6mm長い → 6mm短い
例4 (-2)×(-3)
数直線上で原点からの-2までは,距離が2で左向き。
→逆の右向きに,原点からの距離が2×3のところまで進む。
→その点が表す数である6が答えとなる。

答えは 6
(-2)×(-3)の具体例
- 1日に温度が2℃ずつ低くなっていきます。3日前は現在と比べて何℃高いですか。
こたえ 6℃高い - 1日にあめを2個ずつ食べました。3日前は現在と比べて何個多いですか
こたえ 6個多い
4.2 除法
割り算のことを除法(じょほう)といいます。例えば6÷2の答えは3ですが,3をこの除法の商(しょう)といいます。除法を負の数にまで拡張しようとするとき,何か具体例で理解しようとすると,これがなかなか難しいのです。例えば,6÷(-2)という除法を何かに例えて理解しようとすると,どうしても「-2等分する」という部分を他の表現に置き換えることが困難です。そこで,負の数の除法を理解するには,除法そのものの意味を変更しなければなりません。
除法の意味とは
6÷2の答えは3です。つまり6÷2=3です。このとき,6=2×3が成り立ちます。逆に6=2×3が成り立つとき,6÷2=3が成り立ちます。
6÷2=3 ⟺⟺ 6=2×3
この関係を利用して
割り算とは,掛け算から考えるもの
というように考え方を転換するのです。つまり6÷2=□で,□の値が知りたいと思ったら,掛け算になおして6=2×□と表し,□にあてはまる数を考えるのです。
※この考え方は,高校生になったとき,文字式を文字式で割るというところでも生きてきます。意欲的な方はこちら をどうぞ。
ポイント除法は乗法から
●正の数で割る
例1 (-6)÷2
(-6)÷2の答えを□とすると
(-6)÷2=□ → -6=2×□
よって □=-3
答えは -3
例2 (-6)÷0.5
(-6)÷0.5の答えを□とすると
(-6)÷0.5=□ → -6=0.5×□
よって □=-12
答えは -12
●負の数で割る
例3 6÷(-2)
6÷(-2)の答えを□とすると
6÷(-2)=□ → 6=-2×□
よって □=-3
答えは -3
例4 6÷(-0.5)
6÷(-0.5)の答えを□とすると
6÷(-0.5)=□ → 6=(-0.5)×□
よって □=-12
答えは -12
例5 (-6)÷(-2)
(-6)÷(-2)の答えを□とすると
(-6)÷(-2)=□ → -6=(-2)×□
よって □=3
答えは 3
0を含む除法の考え方
● 0を割る
0÷2の答えが□だとすると,
0÷2=□ → 0=2×□
よって □=0
このように0を,0でない数 aa で割ると,0=a× から□は常に0となります。
● 0で割る
2÷0の答えが□だとすると,
2÷0=□ → 2=0×□
この□に当てはまる数はありません。0にどんな数を掛けても0になり,決して2になることはありません。
まとめ・0÷(0でない数)=0
・どんな数も「0で割る」ことはできない

問題1 次の計算をしなさい。
(1) (+5)×(+4)
(2) (+3)×(-3)
(3) (-8)×7
(4) (-10)×(-6)
こたえ

問題2 次の計算をしなさい。
(1) (+12)÷(+4)
(2) (+8)÷(-2)
(3) (-14)÷7
(4) (-20)÷(-5)
こたえ