公務員試験のための数学ワークブック
公務員試験の一般知能分野、教員採用試験等の一般教養分野の数学に限定して説明しています。より本格的に復習されたい方は、本編の 高校数学 をご覧ください。

乗法公式・因数分解と2次方程式
さて,これから高校数学が続きます.今回は「乗法公式・因数分解と2次方程式」です.乗法公式と因数分解の公式は,同じ式の左から右への変形か,右から左への変形かの違いだけです.乗法公式は分数の分母が無理数の場合にそれを有理数にする(有理化する)ときに使ったりします.また因数分解は今回の最後に取り上げる2次方程式を解く際に欠かせない知識です.
1. 分配法則さえ知っていればOK~式の展開
皆さんよくご承知のとおり,1つの式の中に足し算,引き算,掛け算,割り算が混ざっているとき,足し算,引き算よりも掛け算,割り算を優先して行わなくてはなりません.例えば,
1+2×3
を計算するときは2×3をまずやってから,その結果と1を足します.つまり,
1+2×3=1+6=7
となります.ところがこの優先順位を逆転させることができます.それにはカッコを使えばよいのです.例えば,
(1+2)×3
とすると,2×3よりも1+2が優先され,この結果に3を掛けることになります.この結果は,
(1+2)×3=3×3=9
ですね.
ところで四則演算において次の関係が成立することもよくご存知でしょう.
a(b+c)=ab+ac(a+b)c=ac+bc
この関係式を分配法則といいます.この法則が確かに成立していることを上の例で見てみましょう.
(1+2)×3=1×3+2×3=3+6=9
さて,私たちが問題を解く際には未知数として x や y などを用いて式を組み立てます.その際例えば,
3(x+5)
という項が出てきたら,分配法則を使って,
3×x+3×5=3x+15
と変形しますね.このように 3(x+5) を 3x+15 の形に変形することを式を展開するといいます.
演習問題1 次の式を展開しなさい.
(1) −4(6−2x) (2) x(x+y)−(3x−y)y

2. 式の展開をお手軽に~乗法公式
さて,次のような式の展開を考えてみましょう.
(a+b)2
これは (a+b)(a+b) の意味ですから,先ほどの分配法則を使って展開することが可能です.まず2つある a+b のうち,前半を X とおいてみると,
(a+b)2=(a+b)(a+b)=X(a+b)=Xa+Xb (分配法則)=(a+b)a+(a+b)b (Xを元に戻した)=a2+ab+ab+b2 (分配法則)=a2+2ab+b2
となります.この (a+b)2 の形の計算はとてもよく出てくるのですが,これをいちいち上のようにやっていたのでは少し面倒です.ですからこれを公式として覚えておくと短時間で式の展開ができるというわけです.
一般知能でよく使われるものとしてあと3つあります.ここでそれらをまとめておきましょう.
乗法公式 乗法公式1 (a±b)2=a2±2ab+b2 (複号同順)
乗法公式2 (a+b)(a−b)=a2−b2
乗法公式3 (x+a)(x+b)=x2+(a+b)x+ab
乗法公式4 (ax+b)(cx+d)=acx2+(ad+bc)x+bd
(メモ)複号同順 “ ±, ∓ ”は + と − を併せた記号ですが,1つの式の中でこれらの記号が複数回使われていて,式の最後に「複号同順」と書いてあれば,「この式は複号の上側ばかりのものと下側ばかりのものの2つを同時に表現していますよ」という意味になります.例えば乗法公式1は,
(a+b)2=a2+2ab+b2(a−b)2=a2−2ab+b2
の2つの式を一度に表現していることになりますが,もし複号同順という言葉がなければ,
(a+b)2=a2−2ab+b2(a−b)2=a2+2ab+b2
という2つを加えた計4つを表すことになります.
公式の使い方に慣れるまでは逆に時間がかかるかもしれませんが,それなりのご利益があるのでしっかり使えるようになってください.
演習問題2 次の式を展開しなさい.
(1) (x+2)2 | (2) (x−3)2 |
(3) (2x+1)2 | (4) (3x−2)2 |
(5) (x+2)(x−2) | (6) (1−x)(1+x) |
(7) (x+2)(x+3) | (8) (x−1)(x+4) |
(9) (2x+1)(x+2) | (10) (x−1)(5x−2) |

3. 乗法公式を覚えればもうこっちのもの~因数分解
冒頭でも述べましたように.因数分解のほとんどは乗法公式における右辺から左辺への変形という作業になります.
因数分解の手順は,
- 共通因数(下の注を参照)でくくる
- 因数分解の公式を利用
(注) 因数とは約数のようなものと思っていてよいでしょう.よって共通因数とは各項に共通する約数といえます.
となります.2の「因数分解の公式」とはSection2でみてきた乗法公式の右辺と左辺を入れ換えただけのものですので何てことありませんね.因数分解をするとは,式を因数の積の形にすることをいいます.書くまでもないかもしれませんが,一応因数分解の公式もまとめておきます.
因数分解の公式
因数分解の公式1 a2±2ab+b2=(a±b)2 (複号同順)
因数分解の公式2 a2−b2=(a+b)(a−b)
因数分解の公式3 x2+(a+b)x+ab=(x+a)(x+b)
因数分解の公式4 acx2+(ad+bc)x+bd=(ax+b)(cx+d)
公式1~3はすぐに慣れて使えるようになりますが,公式4は所謂「たすき掛け」の方法によって a,b,c,d を見つけ出さなくてはならず,慣れてきてもある程度の試行錯誤が必要です.一般知能では公式4を使って因数分解しなければならないことはほとんどないですのでここでの説明は省略します.
例題 次の式を因数分解しなさい.
(1) 2x+4 (2) x2+3x
(3) x2+8x+16 (4) x2+5x+4
こたえ
(1)まずは共通因数がないか調べます.この場合 2x にも 4 にも共通な因数として 2 を持っていますから,2でくくり出します.
2x+4=2(x+2) ⋯ (答)
(2) x2 も 3x も共通な因数として x を持っていますからこれでくくり出します.
x2+3x=x(x+3) ⋯ (答)
(3) 3つの項に共通な因数はありません.しかし因数分解の公式1が利用できます.
x2+8x+16=x2+2⋅4⋅x+42=(x+4)2 ⋯(答)
(4) これも3つの項に共通な因数がありません.しかし因数分解の公式3が使えます.この公式では a と b を求めなければなりませんが,そのポイントは,まず定数項(数字だけの項)の ab に着目します.ここはある2つの数を掛けた結果となっています.本問の場合,掛けた結果が4となっていますから,掛けて4になる2数の組合せを,とりあえず整数の範囲で考えてみます.この場合,
4=1×4=(−1)×(−4)=2×2=(−2)×(−2)
の計4通り存在します.(今はあくまで整数の範囲で考えています.4=0.5×8 などは差し当たって考えません.)この中で,足して5になる組合せを選べばよいことになります.2数を足したものは上から順に,
5, −5, 4, −4
となりますから,一番最初の2数を選べばよいわけです.どちらを a,b にするかはこの場合はどちらでも構いません.よって,
x2+5x+4=x2+(1+4)x+1⋅4=(x+1)(x+4) ⋯(答)
演習問題3 次の式を因数分解しなさい.
(1) 3x−12 | (2) −2x2+6x |
(3) x2+10x+25 | (4) x2−6x+9 |
(5) x2−4 | (6) 4x2−9 |
(7) x2+7x+10 | (8) x2−6x−27 |

4. 乗法公式→因数分解からイモヅル式にわかる~2次方程式
2次方程式は2次関数と密接な関係があるため,本来は2次関数とともに学習すべきなのですが,2次関数については出題頻度が低いためここでの説明は割愛させていただきます.2次関数に絡んだ問題が出題されるとすると,ほぼ間違いなく
最大最小問題でしょう.これには2次関数のグラフをきちんと描き,定義域をしっかりおさえることができれば難しいところはありません.あと2次関数の頂点の座標が求められるよう復習しておけば万全です.
2次方程式の解法は,
- 因数分解をする.
- 解の公式を利用.
のいずれかですが,一般知能で出題されるときには因数分解ができるような簡単な数値設定になっていることでしょう.ですからSection3で因数分解ができるようになった皆さんにとって,2次方程式などその付録のようなものです.
4.1 因数分解ができるケース
例題 次の2次方程式を解きなさい.
(1) x2+6x=0 (2) x2−x−30=0
こたえ
(1) 左辺を因数分解します.共通因数のxでくくりましょう.
x2+6x=0∴ x(x+6)=0
x(x+6)=x×(x+6)=0 ですから,2数の積が0という意味です.掛けて0になるためには少なくともどちらか一方が0でなくてはなりませんから,
x=0, x+6=0∴ x=0, x=−6 ⋯(答)
(2) 同じく左辺を因数分解します.因数分解の公式3を適用しましょう.
x2−x−30=0∴ x2+(5−6)x+5×(−6)=0∴ (x+5)(x−6)=0
(1)と同様に,
x+5=0, x−6=0∴ x=−5, x=6 ⋯(答)
4.2 因数分解ができず,止む無く解の公式を用いるケース
解の公式は次のとおりです.
解の公式 ax2+bx+c=0 (a≠0) において, x=−b±√b2−4ac2a
“±” の記号が含まれていますから,別々に書くと,
x=\frac{-b + \sqrt{b^2-4ac}}{2a},\quad \frac{-b – \sqrt{b^2-4ac}}{2a}
の2つが答えになります.
一般知能で解の公式を使うことは滅多にありません.2次方程式が絡むほとんど全ての問題は,因数分解の公式が適用できるように数字が設定されているはずです.選択肢をヒントに,答えが \sqrt{\ } を含んだ複雑な式で,いかにも解の公式を使いましたといわんばかりのものに対しては,この解の公式の適用を検討すべきでしょうが,一般的にいって,解の公式よりも因数分解の公式を使うほうが,短時間かつ正確に答えを出せるので,まずは因数分解の公式が適用できないかと考えてみて,ちょっとやそっとではうまい2数が見つからない場合に限って,この解の公式を適用することにしてください.
例題 次の2次方程式を解きなさい.
(1)\ x^2+3x-1=0 (2)\ 2x^2-x-2=0
こたえ
(1)因数分解の公式が使えませんので解の公式を使います.
\begin{align*} x &= \frac{-3 \pm \sqrt{3^2-4\cdot1\cdot(-1)}}{2\cdot1}\\ &= \frac{-3 \pm \sqrt{9+4}}{2}\\ &= \frac{-3 \pm \sqrt{13}}{2}\ \cdots(\mbox{答}) \end{align*}
(2)やはり解の公式を用います.
\begin{align*} x &= \frac{-(-1) \pm \sqrt{(-1)^2-4\cdot2\cdot(-2)}}{2\cdot2}\\ &= \frac{1 \pm \sqrt{1+16}}{4}\\ &= \frac{1 \pm \sqrt{17}}{4}\ \cdots(\mbox{答}) \end{align*}
演習問題4 次の2次方程式を解きなさい.
(1)\ x^2-4x=0 | (2)\ x^2-12x+36=0 |
(3)\ x^2-144=0 | (4)\ 9x^2-1=0 |
(5)\ x^2-6x+8=0 | (6)\ x^2+x-110=0 |
(7)\ x^2+x-3=0 | (8)\ 2x^2-5x+1=0 |

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